染まりゆく細胞
行かむとす山手線を脱ぎ捨てて 空へ顔出しまた息をする
エスカにて味噌の1剤取り入れて そのアルカリで吾が身を開き
物欲と錯誤しており 段ボール街を産むごと積み上がりゆく
置き場所を決める前から休みなく アンケートまで突きつけられて
段ボール裂けば溢れる書類たち 床に広がる生活の影
西陽あり まな板に置く生野菜 ガス無き部屋にすとんと響き
火を求め夜の帳に落とされてドン・キホーテの光に縋る
煙なき冬の寒さに蝕まれ 門戸を叩く風呂キャン界隈
湯の印スマホの地図に永楽湯 コイン渡してぐるぐる回る
微睡みて室内灯に吸い込まれ 彼の観覧車夜を回して
歪なる間隔で鳴くアラームで 跳ねる身体を今日に打ち付け
徒歩5分底に歪みが硬くあり 赤い光に握らるる首
通勤路陽を浴びている「OSU」の群れ 押忍と唱えてやがてバス停
鉄くずの波に流され鬼ヶ島 慣れた手つきでアカウント変え
ドア開き取り出すSuica迷いあり 浅い呼吸を吐き出して今
フラッパーゲートに人と知れぬよう エビの尻尾でツノを立てゆく
乾く音ブルーライトに瞳を焼かれ 入力機器の一部となりて
温かい煙に抱かれあやされて 揺られておれば伏見地下街
玄関の戸を開け不意に息を飲み 撫でし風にも身に覚えなく
心音と街のリズムが調和せず 指揮者のような招き猫おり
呱々の声えんもゆかりもなき街で 独りいる吾は嬰児となり
繁華街テンプレートの街並みで 包囲網敷く馴染みのチェーン
手を伸ばし全てに触れる街並みは ジオラマであり市民Nなり
名鉄や名駅などの呼称あり 舌に馴染ませ異国語のごと
溶かすべく寸胴鍋に揺蕩いて 心根さらう多摩川の風
名古屋飯口元緩み三日月に 細かき胞は地に染まりつつ
最寄駅スカーレット色の車体 発する熱が血潮に染みて
皆が言う「履修必須」のじゃんだらりん「三河弁じゃん、ここ尾張だで」
追憶は招き猫振る指先に 歩くリズムは街と混ざりて
いつの間に見慣れし街となりたるか 揺るる視界は恋に似たもの
第69回「短歌研究新人賞」にて予選通過作として選ばれました。 結果発表に際し選出され、書籍に掲載されたのは以下の2作品です。 ・段ボール裂けば溢れる書類たち 床に広がる生活の影 ・西陽あり まな板に置く生野菜 ガス無き部屋にすとんと響き 締切1週間前に応募しようと奮い立ち、慣れていない土地、環境ながら寝不足で必死に考えたことを思い出します。こちらに応募した経験から、賞への応募ハードルも下がり、色々試してみようという気持ちになれました。また、こういう短歌だといいんじゃないか?という感覚も少し培われたような気もします。引き続き気を引き締めて邁進します。